ほんの少し思い出ばなし。

 

今日から1ヶ月前の9月11日は、かのんの14回目のお誕生日だった。

バレエのレッスン終了後、午後9時20分に家族6人全員リビングに集まった。

いつもだったらこの時間、ベッドに入ってテレビを見ている母も

かのんの誕生会の為に起きて待っていてくれた。

美里が買ってきてくれたサーティーワンのアイスクリームのケーキにロウソクを立て

「アイスクリームだから溶けちゃうから早くしないと!ロウソクがたれてしまうよ!」

と、みんなでわーわー言いながら電気を消した部屋でロウソクに火を灯した。

 

ケーキを前に目を閉じるかのん。

(なにをお願いしているの?)(ふふふ、ないしょ。)

 

かのんと、かのんを見つめる家族の嬉しそうな顔が

ロウソクの明かりに照らされて、それはとても美しい光景だった。

 

アイスクリームでできたお誕生日ケーキを買ったのはこの時が初めてだった。

「普通のケーキよりも美味しいね。来年もこれにしよう。」

淹れたての熱いコーヒーがアイスクリームケーキを一層美味しく感じさせてくれた。

パパサンはコーヒーが大好きな人で、コーヒーを淹れるのも上手だった。

口数は少ない人だったけれど、いつも優しく微笑む姿は彼を知っている人なら

すぐに思い出すことができるだろう。

 

この時も全く同じように優しい笑顔で微笑んでいた。

 

ハッピィーバースディのうたをうたうとき

彼の声は聞こえたかな?

小さな声でうたったかな?

 

それは思い出せないけど・・・

確かにあのときに彼が目の前に座っていた。

 

 

優しい目で家族を見ていた。

 

 

これが家族みんなで最後に過ごした夜。

 

 

 

 

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